『辞書と日本語』見坊豪紀 玉川選書 1977年

辞書論で水谷静夫山田俊雄の意見に言及。(p81〜)
隠語辞典によれば、「ムショ」(刑務所)は「むしよせば」の略。「モク」は「雲の逆語」。(p98)
「ばてる」は「果てる」の濁音化ではないか、と言ふ。(p99)
「破鏡の嘆」。当時の鏡は金属製なのだから、「われた」のではなくむりやりわった鏡なのである。(p103)
「きなくさい」は「火縄臭い」が元ではないかと言ふ。(p106)
野呂邦暢『草のつるぎ』の中で、ウサギ狩りを「暴兎鎮圧作戦」と呼ぶのには笑ってしまった。(p121)
「すべからく」誤用の実例。三遊亭円楽の昭和三十九年と昭和四十一年の講演。(p134)
「転寝」(うたたね)を家族が「ごろ寝」と読んだので笑ってしまった話。(p178)
昭和二十年代の発表と思しい文章に[著者が日付をメモし忘れた]既に耳ざわりのいいこととある。(p195)
索引のない言葉の本は読み捨てになり易い、とのこと。(p196)
芥川龍之介奉教人の死』での文体模写の誤りの指摘。無理もないことだが知らず識らず自分の時代の言葉の感覚に引きずられる、とのこと。(p156)

  • 誤り(「の」の入れすぎ)
    • ×落ちたのでござる→○落ちてござる
    • ×起こったのは→○起こったは
  • 成功例
    • 〜したに、
    • 来たは

文法の教科書に書いていない、、ずれた使い方、特にふつうの人が共通にまちがえている用法―――そのようなものに特に関心を持って集めている。「すべからく」もそのようなことばの一つである。しかも、わりあい数多く観察され、変種も多い。ことばのこの自由なエネルギーに私はいつも心を打たれる。(p136)

といふのは甘すぎると思ふ。