×づくめ ○ずくめ

このことばについては、実はすでに明治時代に、正確な解釈が出ていたのである。明治二五年から二十六年にかけて刊行された山田美妙の『日本大辞書』(いまノーベル書房から影印本が出ています)にこうある。
< ずくめ(…)[すくめ(竦)ノ義、即チ其物バカリデ覆ヒ竦メル意]。(…)近松、女楠、「鎧ヒノ透キ間透キ間、矢ずくめニ竦メラレ」。>
これが正しいのである。
身がすくむ、などの「すくむ」ということばがある。動けなくなる、の意である。その他動詞が「すくめる」で、動けなくすることである。「抱きすくめる」と言えば、しっかりと抱いて動けなくすることである。
この「すくめる」の連用形が「すくめ」で、上に他の語がつくと濁って「…ずくめ」になる。周囲からあまたの矢を射かけられて動けなくなった状態が、右に引く「矢ずくめ」である。

高島俊男『キライなことば勢揃い(お言葉ですが 5)』の「結構ずくめ金ずくめ」。「づくめ」について昔の同僚坂梨隆三が論文を送って指摘してくれたので、それを受けて本欄には訂正文を書いたが、単行本には(文庫本にも)ずっと収録し忘れてゐたとのこと。坂梨『近世の語彙表記』(武蔵野書院)で読めるらしい。