ローマ字化論者(?)の謬見は巡る巡る

いつものことだが正字・正假名使ひの爲のアンテナ経由。

タイトルを読んでてっきりローマ字論者謬見だと思ったらなんとローマ字化を支持する論だった。


過剰な外来語の氾濫には寛容であっても、日本語の表記方法となると大いに事情は異なるはずです。

ローマ字で日本語表記などと口走ろうものなら、途端に周囲は気色ばんでくるはずです。

時として生麦事件を想起させられるような、反応すら示すに違いありません。

「日本語のローマ字表記」をたわ言として取り合わない人々の主張は、大方、日本語が同音異義語が多い、分ち書きが出来ないといった日本語の特殊性にかこつけたものです。

気色ばむといふより愚論だからあきれるだけだらう。「かこつける」などとよくまあ一方的に決めつけるもんだ。


文字は通常、《理論的》な、左脳で処理されるけれども、漢字は、絵画のように、《感覚脳》である右脳でもとらえられ、どちらの脳も活発にするというのが、石井氏の主張です。

日本語だけを例にすれば、至極もっともらしく聞こえ、大手を振って十分まかり通る言説です。

しかし、漢字両脳活化説に従うと、中国人がもっとも右脳と左脳を働かせていることになるのではという疑問が、まず浮かび上がってきて、次第に石井氏の言説も色あせてきます。

「ああ、なるほど」とうっかり納得してしまふところだった。至極もっともらしく聞こえたものだから。石井説をよく知らないので断言はできないが、どうも文体演習センセイは自説に都合良く歪曲してゐないかという疑問が、まず浮かび上がってきます。「両脳活性化」と聞く限りでは、漢字と仮名を両方使ふから両脳が云々といふ説だと思ふのだが、違ふのだらうか。もし違ふとしても、そのように読みかへればそれだけで文体氏の石井説批判(?)の言説も色あせてきます

中島敦の『文字禍』ではありませんが、文字を知ることによって損なわれる能力を含めての検証も、いずれ必要でしょう。

『文字禍』はむしろ笑ふのがふつうな読みではないのだらうか。もちろんただ笑ふだけ以上の意義はあるけど。それとも「『文字禍』ではありませんが(笑)」といふ意味なのか。

トルコやベトナムがローマ字化によって近代化を果たしたといふ結構なお話。確認するまでもないが、トルコやベトナムではローマ字化が有効だったといふこと。


翻って、極東の島国の歴史を振り返ってみますと、安土桃山時代に、セミナリオ、コレジオなどで、修道士などにより、ローマ字による日本語の記述が行なわれています。

翻ってとあるから、前段に続いていよいよローマ字化が日本でも有効であるはずだ(はずだった)といふ強力な証拠が出てくるのだな、と期待しつつ以下を読むとその議論がなぜかまったく無く、ローマ字化が進まなかったことが悪いことであるかのやうになぜか決めつけてゐる。

確かに、極東の人々の心の奥底に、強い祖先崇拝、伝統への畏怖、それまで漢字とかなによって積み上げてきた知的財産の喪失を恐れるから、日本語は分かち書きが出来ないなどと、幾つも理由を挙げて、もっともらしい仮説を構築することが出来るでしょうが、いずれも私にはしっくりとはきません。

最もしっくりとくるのは、潘 佩珠(ファン・ポイ・チャウ)の『ヴェトナム亡国史』のフランスがヴェトナムの植民地政策に《科挙文字》を利用しているとする一節です。

極東の官公庁職員選考までの試験制度は、外国語試験も含めて、いかに多くの文字(言葉)を知り、それを「詩賦・訓詁・詞章」やら「四書五経」のように体系的、「八股文」のように忠実、正確に再現できるかを、大方は試すものです。

官公庁職員に選考されるまでの試験制度は、やはり「疑似科挙制」と呼ぶべきものなのでしょう。

漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字(ラテン文字)による混合表記は、その制度を半永久的に維持温存するために必要不可欠なのではないかと推定することは、あまりにも《牽強付会》過ぎるでしょうか。

幾つもある仮説に納得せずその挙句にそんな珍論を出すのか。まともに取り合ふのも馬鹿馬鹿しいが、いちおう批判。
昔のベトナム現代日本とで識字率が同程度だとでも思ってゐるのか。現代日本の試験で科挙ほどに文章の才が重視されてゐるとでも言ふのか。

最初に「日本語のローマ字表記」をたわ言として取り合わない人々の主張は、大方、日本語が同音異義語が多い、分ち書きが出来ないといった日本語の特殊性にかこつけたものです。と一方的に決めつけてゐたが、その証明はつひになされないまま。何かにかこつけることすらしなかった。
箸にも棒にもかからない愚論でうんざりしたと言ふのは、あまりにも<<率直>>過ぎるでしょうか
断り書きまで読者をバカにしてゐる。


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